PLuS2010 FINAL

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AIDS REPORT

AIDS REPORT 2010 ウイルスが変わり、治療が変わる

大阪府のHIV感染者/エイズ患者の年次別報告をご覧ください。ここでの「HIV感染者」とは、エイズを発病する前に感染していることがわかった人を指します。2009年に大阪府で検査を受けた結果HIV感染がわかった人の数は全部で233名、そのうち発病前にわかった人(HIV感染者)が171名、発病してわかった人(エイズ患者)が62名でした。昨年のPLuS+でお伝えした、前年(2008年)の傾向は以下のとおりでした:

① 感染者の大部分は依然としてMSM
② 20代、30代が全体の約7割を占めているが、発病する前にわかる場合がずっと多い
③ 50代以上は逆に、発病してわかる場合が約半数を占める

2009年にも同じ傾向がみられます。なお、MSMはMen who have Sex with Menの略で、「男とセックスする男」を意味します。

次に表1をご覧ください。③の発病してわかる人の割合は50代以上でますます増え、2009年は50代以上全体の過半数を超えました。このことは、昨年のPLuS+でもお伝えしたとおり、ミドルエイジ(中高年)のMSM、特に50代以上の層で予防と検査につながる行動がとても不十分であることを物語っています。なお、感染がわかった人全体の数は2008年より僅かに減っていますが、2009年は新型インフルエンザの影響でHIV検査環境が劣悪だったので、実態を反映しておらず、感染者が減る傾向にあるとは到底いえない、というのが関係者の一致した見方です。

さて、名古屋市立大学市川教授の行った調査結果から、HIV感染がいかにMSMに集中しているかがわかりました。それによると、

* 成人男性に占めるMSMの占める割合は2%
* セックスの有無を問わず、男性に性的に引かれる男性の割合は4.3%
* 近畿圏のMSM推定人口は108.000人

でした。この数字をもとにHIV/AIDS有病率(=現時点で病気を持っている人の割合)を計算すると、全国平均で人口10万人あたり

* HIV感染者はMSMで690人、MSM以外で7人
* エイズ患者はMSMで189人、MSM以外で6人

となります。MSMのHIV/AIDS有病率はノンケの人たちのざっと百倍近く、ということになります。このように特定の病気がMSMに集中する傾向は、エイズだけでなく、B型肝炎や梅毒にもみられるのですが、その要因としては

* アナルセックスが感染を引き起こしやすい
* 性的ネットワークが濃密になりやすい

の二つが考えられます。「性的ネットワークが濃密になりやすい」とは、MSMという少数で、性的ネットワークの観点からは閉じられた集団のなかで、セックスが頻繁に行われ、それに伴って病原体がネットワーク上を速いスピードで巡りやすくなっている状態を表しています。

一方、治療の現場でも、昨年あたりから大きな変化がみられました。
これをまとめると:

①感染から発病に至るまでの期間が、以前は平均10年といわれていたものがどんどん早くなり、4年で発病というケースが多くみられるようになった

②免疫力が一旦減少してから治療を開始した場合、免疫力が高い時期に治療を開始した場合と比較して、同じようにウイルスの量が減少したとしても、免疫力が十分回復しない人が多いことがわかってきた

③このことから、治療の開始時期が以前と比べてずっと早くなった

④25歳でHIVに感染した人の平均余命は35年以上(すなわち期待できる寿命は25+35歳=60歳以上)になり、HIVに感染していない人と数年しか変わらなくなった。ただし、治療を継続しても、体内から完全にHIVを排除するには約60年かかると考えられており、治療は一生続くということになります。以前考えられていたレベルよりさらに病気の進行が速くなっていることがわかり、その分治療の開始時期も早まっているわけです。

以上のことから見えてくるのは、患者さんの二極分化です。早くに感染していることがわかり、早くに治療を開始できた人は、抗HIV薬を順調に飲むことができればエイズを発病することはなく、高い生活の質を保ちつつ平均寿命に近い年月を生きられると考えられます。またこのような状態にある人は、他の人にHIVをうつす可能性も限りなくゼロに近いことがわかってきました。一方、感染していることに気付くのが遅くなると、ウイルスが脳細胞や神経系を攻撃するのを許すことになり、後戻りできない後遺症を抱え、要介護の生活を余儀なくされることも少なくありません。

こう見てくると、エイズをはじめとする性行為感染症は、私たちMSMにとって身近でかつとても大きな問題であることは間違いありません。エイズウイルス(HIV)はどんどん変化し、病気の進行が速くなっています。感染から発病まで平均して10年かかる、と言われていた時代は確実に過去のものとなりつつあります。その意味で、現時点での私たちの最も大きな課題は、すでに感染しているが、そのことに気付いていない人が検査につながり、医療・福祉・民間のサポートにつながることです。 そのために必要なことは:

* 身近な検査場・医療機関(拠点病院+身近なクリニック)の情報を得ること
* 公的サポート(福祉)および民間のサポートの情報を得ること

ですが、もっと大事なことは:

* 大阪・関西のMSMである限り、エイズは他人事ではないこと

を肝に銘じることです。「すでに感染しているが、そのことに気付いていない人」とは、どこかにいる特別な人ではありません。私たちの誰もがそうであるかもしれないのです。エイズは私たちにとって、そこまで身近な病気になりました。

(MASH大阪 代表 鬼塚 哲郎)