PLuS2010 FINAL

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PLuS+2007 調査報告

2007年度エイズ予防啓発事業<PLuS+2007>調査報告

2007年10月27日に実施されましたPLuS+2007(プラスニセンナナ)において、イベントの効果評価の一環として来場者数や来場者属性などに関する調査を実施しましたので、以下の通り分析・報告いたします。

来場者調査

右図の通り、公園内の5箇所において、集中人口(流入人口)を計数しました。その結果、延べ来場者数が10,464名であることがわかりました(速報値より若干修正がありました)。
本年は「延べ来場者数」を把握するのに加え、「2度カウント」「3度カウント」といった重複を除いた「実数」を知るためにアンケート調査(愛称「ちぇっくん」)を実施しました。アンケート調査では、来場者の皆さんに「扇町公園に何回入ったか」などをうかがいました。アンケートの結果、公園への流入回数は、14時台で平均1.99回、16時台で平均2.06回、18時台で平均2.36回であり、全回平均で2.14回であることがわかりました。「来場者実数」は、上記の「延べ来場者数」を、アンケート調査で明らかになった「公園への平均出入り回数」である2.14回で補正した結果得られます。その結果、来場者実数が4,890名と推定されました。

来場者の属性

アンケートの結果、大阪府からの来場者が59%、兵庫県からの来場者が11.1%、京都府からの来場者が8.4%であり、近畿圏からの来場者が8割程度占めることがわかりました。また「PLuS+2007が目的で扇町公園を訪れた」と回答した人が81.6%である一方、「通りがかったらやっていた」との回答が11.3%であり、公共空間での開催による多様な来場者像を反映した結果となりました。また、来場者の平均年齢は29.7歳であり、最高齢は79歳でした。

セクシュアリティ(性的指向)

今回のアンケートでは、セクシュアリティ(性的指向)に関する項目を設けました。この項目は、PLuS+(プラス)がMSM(ゲイ・バイセクシュアル男性をはじめとした「男性とセックスをする男性」)を主要な来場者として想定していることから、実際の来場者がその想定とどの程度合致しているかを評価する目的で設定されました。その結果、PLuS+2007の来場者の内65%が自らのセクシュアリティを「ゲイ」と自認しており、以下「へテロセクシュアル」が9.4%、「どれにも当てはまらない」が9.1%、「バイセクシュアル」が6.7%、「レズビアン」が3.3%、「トランスジェンダー」が1.4%、「その他」が1.9%、「無回答」が3.1%であり、半数以上の来場者のセクシュアリティ自認が「ゲイ」であることがわかりました。
また、上記割合で来場者実数を補正した結果、PLuS+2007に自らのセクシュアリティを「ゲイ」であると自認する人が約3200名来場したことがわかりました。厚生労働省研究班の過去の研究(※1)などにより、成人男性に占めるMSM人口比率は3〜5%程度と考えられることから、近畿圏には約30万人(大阪府15万人、兵庫県9万人、京都府4万人、奈良県2万人)のMSMがいると推定されます。PLuS+2007は来場者の8割が近畿圏在住ですので、ここから近畿圏MSM人口30万人の約1%がPLuS+2007に来場したと算定できます。

主催団体「MASH大阪」の認知

PLuS+2007の主催団体であるMASH大阪は、ゲイ・バイセクシュアル男性をはじめとしたMSM向けにHIV/エイズに関する情報を発信している民間団体です。今回のアンケートでは「MASH大阪」の認知(MASH大阪を知っているかどうか)を項目として採用しました。「MASH大阪を知っている」ということは、「MASH大阪の発信するHIV/エイズに関する情報に触れたことがあるかどうか」を測る一つの指標になると考えられます。
調査の結果、来場者の内53.1%がMASH大阪を知っており、さらに「セクシュアリティ自認がゲイ」である人の62.7%がMASH大阪を知っていることがわかりました。ここから、来場者の5〜6割程度の方々が、今までにMASH大阪の発信する予防情報に触れたことがある可能性が示唆されます。

総評

厚生労働省エイズ動向委員会の報告によると、2007年の1年間に報告された新規のHIV感染者(エイズを未発症の状態で感染がわかった人)は1082人であり、エイズ患者(エイズを発症して感染がわかった人)は418人で、いずれも過去最高の数字となりました。感染経路別に見ると、同性間性的接触がHIV感染者の67%、エイズ患者の38%を占めており、患者・感染者共に同性間性的接触が感染経路の中で最も大きな割合を占めています。なお、患者・感染者報告数の約9割を日本国籍の男性が占めていることから、この同性間性的接触が男性同性間の性的接触を意味していることがわかります。
一方、大阪府でも増加傾向は続いており、2007年の1年間に報告されたHIV感染者は147人、エイズ患者は41人と、いずれも過去最高の数字となりました。感染経路では、HIV感染者の69%、エイズ患者の39%を同性間性的接触が占めています。なお2007年の日本エイズ学会において臨床現場の知見として、実際の男性同性間における感染事例はエイズ動向委員会の報告よりも多いのではないかとの指摘がなされました。大阪府においても、患者・感染者の90%以上を男性が占める現状を考えると、男性同性間の性的接触による感染割合は、実際の報告よりもさらに高いものと推定されます。
そのような状況下にあって、PLuS+(プラス)は近畿圏で唯一のMSMを主要なクライアントとしたHIV/エイズ関連イベントです。厚生労働省研究班とMASH大阪が2007年に大阪地域のバーなどMSM向け商業施設で実施したアンケートデータによると、商業施設利用者の内、20代・30代を中心とした全回答者の55.9%が「PLuS+(プラス)を知っている」と答えています(※2)。これらのデータも交え、今回データを分析した結果として、PLuS+の意義と課題を以下のように整理できると考えられます。

意義

  • 来場者実数は約4890名であり、MSMを主要なクライアントとしたHIV/エイズ関連イベントの中では全国で最大規模の企画の一つとなっている。
  • 大阪地域のバーなどMSM向け商業施設のネットワークの中では「PLuS+」の認知は50%を越える高い水準になっている。
  • 来場者実数の内、セクシュアリティを「ゲイ」であると自認する人が3179名、さらにその内MASH大阪を知っている人が1993名であった。ここから、「PLuS+」がMASH大阪がアウトリーチの範囲とする「ゲイタウンを中心としたネットワーク」に対して高い訴求力を持ったイベントであることが示唆さされる。
  • エイズ動向委員会報告において、HIV感染者報告が多い20代・30代を主要なクライアントとして獲得している。
  • 近畿圏からの来場者が8割程度を占めることから、CBO(Community Based organization)の主催する地域基盤的なイベントとしての意義を果している。

まとめ

実数で約5000名が来場したPLuS+2007は、個別施策層向けイベントとして規模、内容共に十分な成果を挙げていると考えられます。今回の調査でPLuS+2007の全体を評価することはできませんが、来場者数や来場者属性などが明らかになったことで、PLuS+2007の意義や課題の一端を知ることができたと考えられます。調査の結果からは「普段あまりゲイタウンに来ない人々」や「中高年層」がより来場しやすい仕組みづくりなどを視野に入れる必要が示唆されます。
今後PLuS+は、今回の調査によって明らかになった課題をふまえ、様々な立場の多様な人々が参加できるように広く市民社会を巻き込みつつ、公共の場所で実施されることが重要であると思われます。最後に、当日アンケートにご協力を頂いた皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

PLuS+2007事業評価委員長
財団法人エイズ予防財団
山田創平

(※1)市川誠一「わが国の男性同性間のHIV感染対策について−ゲイNGOとの協働による疫学研究をとおして−」日本エイズ学会誌,2007,23(23)-24(24)
(※2)このアンケートはPLuS+2007実施前のデータであるため、PLuS+2004〜2006の認知を示すものです。

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